文科省・学術情報委員会とアクティブラーニングの最新動向

(2013.7.1 追記)

・傍聴した第3回委員会の議事録が公開されましたので追記しました。

・掲載許可をいただきましたので、傍聴席の画像を追加しました。


 

文部科学省の委員会に科学技術・学術審議会-学術分科会-学術情報委員会(以下、学術情報委員会)*1があります。現在こちらは第7期だそうで、委員には、千葉大学アカデミック・リンク・センター長の竹内比呂也先生、国立情報学研究所長の喜連川優先生はじめ、あまり知識のない自分でもわかる錚々たるメンバーで構成されています。詳しくは委員名簿*2をご覧ください。

 

これまでに第1回(4月11日)、第2回(5月17日)と開催されており、それぞれ配布資料と議事録が公開されています。

 

本当は議事録や配布資料をふまえ、細かく紹介・説明できればいいのですが、あまりにボリューミーかつ内容が多岐に渡っているので、関係者各位はじっくりと目を通されてください。

 

第1回

第1回の配布資料によると、この学術情報委員会の調査事項は「学術情報の流通・発信の強化及びそのための基盤整備の在り方」、「その他学術情報の利活用の促進に関する事項」で、審議事項は次のとおりとなっています。

 

○学修環境充実のための学術情報基盤の整備

 1.能動的学修環境整備の在り方について

 2.学習資源の電子的保存・共有・普及の促進について

 3.蔵書のデジタル化等による大学図書館の機能強化について

 

○アカデミッククラウド・データ科学の進展を踏まえた学術情報基盤の整備の在り方(次期学術情報ネットワーク(SINET5)の整備を含む)

 

今回特に注目しているのは、「学修環境充実のための学術情報基盤の整備」についてです。この件に関する第1回の配布資料は以下のものになります。

 

主に、昨年から盛んに目にするようになった「アクティブラーニング」に関する議論が行われており、頃までに委員会のとりまとめを行うとのこと。これは今後の大学や大学図書館にとって大きな影響、指針を指し示す内容になるかと思います。

 

ポイントは「1.能動的学修環境整備の在り方について」の「基本的な考え方」にある以下の箇所になると思います。

能動的な学修環境を効果的に整備するためには、そのためのスペースの確保に加え、組織的には、図書館、情報系センターなど学術情報に関わる組織と教育を担当する部局教員が協力して推進する体制が重要であり、内容面においては、学習のための空間、提供するコンテンツと学習を補助する人的サポートの有機的な連携が必要である。

 

特に資料中では、図書館や図書館員に求められる役割や機能が、これでもかと盛り込まれています(笑)。ざっくりといえば、1.空間の整備2.サポート体制の整備3.コンテンツの整備の3点、これに付随する各論という感じでしょうか。

 

第2回

第2回は主に資料のデジタル化の話、奈良先端科学技術大学院大学慶應義塾大学報告が中心です。

なお第1回の議論を経て、各委員から出された意見が第2回の配布資料のうち以下の資料となり、議事録の終盤にも説明や議論が記されています。

 

第3回

第1回と第2回の学術情報委員会の議論、また同志社大学のラーニングコモンズをはじめ様々な大学のラーニングコモンズを見てきたころもあり、「アクティブラーニング」と「ラーニングコモンズ」がどう取りまとめられていくのか、これはぜひ生で委員会を見てみたいと思ったわけで、第3回の委員会の傍聴に行ってきました。

 
なにぶん人生初の傍聴。ちょっとドキドキでしたが、HPに公開された開催概要*7に申込方法が記載されているので、必要事項を書いてメールで申し込むだけ。思っていた以上に簡単でビックリしました!
 
傍聴席は約30席ぐらいで、当日の傍聴者はだいたい20名弱でした。現地に行ってみると、普段から交流のある大学職員の方もいらっしゃって、やはり注目度の高さが伺えます。また実際に傍聴したことで、議事録の発言者の人となりや専門領域のイメージがつかめるようになり、議事録の内容がより身近に感じられるようになりました。傍聴、おススメです。

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左側が委員の方々の席。
 

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 こちらが傍聴席。
 
さて、この傍聴してきた第3回の配布資料も先日公開されました。(議事録が7/1に公開されました)現時点では議事録はまだですが、間もなく公開されると思います。

 

特に注目なのは、第1回、第2回の委員会を経て提示されたこちらの資料。参考資料も含め、今回のブログ記事でもっとも大事な資料です!

 

中央教育審議会*10において、平成25年4月25日に「第2期教育振興基本計画について(答申)*11」が取りまとめられ、平成25年6月14日付けで閣議決定*12されており、この方針に沿った内容でもあり、文部科学省としての方針となるかと思います。

 

この「第2期教育振興基本計画(本文)*13」、第2部「成果目標2(課題探求能力の修得)」の「基本施策8 学生の主体的な学びの確立に向けた大学教育の質的転換」において、【基本的考え方】が以下のように記されています。

  • 知識を基盤とした自立,協働,創造の社会モデル実現に向けて「生きる力」の基礎に立ち,生涯にわたり学び続け,主体的に考え,どんな状況にも対応できる「課題探求能力」を有する多様な人材を育成する。
  • 学士課程教育においては,学生が主体的に問題を発見し,解を見いだしていく能動的学修(アクティブ・ラーニング)や双方向の講義,演習,実験等の授業を中心とした教育への質的転換のための取組を促進する。 
  • 学士課程教育の質的転換のために,事前の準備や事後の展開も含め,主体的な学修に要する総学修時間の実質的な増加・確保を始点として,教育課程の体系化,組織的な教育の実施,授業計画(シラバス)の充実,教員の教育力の向上を含む諸課題を進めるための全学的な教学マネジメントの改善などの諸方策が連なってなされる「質的転換のための好循環」の確立を図る。
  • その上で,大学院においては,世界の多様な分野において活躍する高度な人材を輩出するため,大学院の教育課程の組織的展開の強化を図る。

 

また「第2期教育振興基本計画(概要)*14」では、4つのヴィジョンの1つ「1.社会を生き抜く力の養成」の「2.課題探求能力の修得」において、「どんな環境でも「答えのない問題」に最善解を導くことができる力を養う」や「学生の主体的な学ぶ確立による大学教育の質的転換(アクティブラーニング、教員サポート等)」などが記されています。

 

また第8回の教育再生実行会議*15 の配布資料、「これからの大学教育等の在り方について(第三次提言素案)*16」においても、「3.学生を鍛え上げ社会に送り出す教育機能を強化する。」ということで以下のように記されています。
大学は、課題発見・探求能力・実行力といった「社会人基礎力」や「基礎的・汎用的能力」などの社会人として必要 な能力を有する人材を育成するため、学生の能動的な活動を取り入れた授業や学習法(アクティブラーニング)、双方向の授業展開など教育方法の質的転換を図る。また、授業の事前準備や事後展開を含めた学生の学修時間の確保・増加、学修成果の可視化、教育課程の体系化、組織的教育の確立など全学的教学マネジメントの改善を図るとともに、厳格な成績評価を行う。国は、こうした取組を行う大学を重点的に支援し、積極的な情報公開を促す。企業、国は、学生の多彩な学修や経験も評価する。
 
また参考資料の「これからの大学教育等の在り方について(第三次提言素案参考資料)*17」においても、「学生の学修時間の日米比較及び各大学における学習環境整備の例」として、小樽商科大学のアクティブラーニングのための教育環境整備、同志社大学のラーニングコモンズの整備、早稲田大学のライティングセンター の整備が取り上げられています。それぞれの取り組みについて参考ページをいくつかピックアップしてみました。

小樽商科大学 アクティブラーニング

   
同志社大学 ラーニング・コモンズ


■早稲田大学 ライティングセンター

 

このように「第2期教育振興基本計画」や「これからの大学教育等の在り方について」でも取り上げられているように、国の方針として「主体的な学び」「アクティブラーニング」を推し進めていくことが示されています。

 

というところで、再び第3回の配布資料「資料1 学修環境充実のための学術情報基盤の整備について(審議まとめ案)」に戻ります。この資料は、第1回のたたき台に、第2回までの議論が追加されたものです。

 

学びの場としてラーニングコモンズ、大規模公開オンライン講座(MOOC)などもまとめ案には含まれ、以下の数字が示されています。

  • ラーニングコモンズの整備状況 210館(平成23年5月1日現在) ※3年間で2倍
  • 講義のデジタルアーカイブ 100大学(平成23年5月1日現在)※全大学の27%

 

なお今回の委員会審議では、以下のような意見が出されていました。(聞き間違い、認識違いがあるかもしれないので、議事録が出たらそちらを参照ください)

  • デジタル保存が目的ではなく、デジタル化した資料をどう活用するかが大事である。
  • 大学間の連携が大事。日本全国で利用可能なコンテンツの整備が必要。
  • 著作権があるのでコンテンツを公開しない、できない。というのではなく、公開できるコンテンツを増やしていく、という姿勢、方針を示す必要があるのではないか。
  • 「場」や「コンテンツ」さえあればいいわけではない。学士力、21世紀型スキル、批判的思考、リテラシー教育など、どのような人材を、どのように育てるのかを示す必要があるのでは。
  • アクティブラーニングは現時点では1つのトライアルでしかない。必ずしも質的転換とは言えないのではないか。ICTを使った教育の1つのトライアル。
  • 使う側、使われる側、学生も図書館員もトレーニングが必要。FDなど、教員も変わっていく必要がある。
  • 専門的な図書館員など、支援する人材の育成をいかに行っていくか、具体的な方法の提示も必要なのではないか。
  • 研究者の育成、研究基盤の整備もアクティブラーニングを実施するにあたっては必要。
  • アクティブラーニングは授業外での利用が中心となるので、どういった課題を出していくかも重要となってくる。
  • 大学に行くことの意義を考える必要がある。共同性、多様性が求められ、グループワークを通じて個々の学び方を理解するなど、自己分析にもつながる。
  • IT、情報、電子化、共有、活用、保存。これらの要素をうまくまとめていく必要がある。
  • NIIはコンテンツとネットワークをこれまで維持管理し、デジタルコンテンツをどう扱うか、大学間でどう連携できるか、主に研究支援を行なってきた。今回の内容では教育・教材も視野に入っており、それをどう扱うかによってNIIの立ち位置も変わってくる。
  • いつまでにどの段階まで推し進めるかなど、時間的なスケジュールを指し示す必要もあるのではないか
  • 著作権とは別に個人情報、プライバシーをどう考えるか。教材なども対象にしていくとなると、学生情報も集まってくる。技術的な面、制度的な面で検討が必要。

 

なお文部科学省としては、教育振興基本計画、中央教育審議会においてアクティブラーニングが打ち出され、アクティブラーニングの推進・促進を行っていく必要があり、このまとめでは大学や大学図書館に対して今後の指針となるような内容としたい。とのことでした。

 

感想

正直なところ、議論の扱う範囲が広く、個々の要素を追っても十分議論が展開できてしまうので、どこまで拾い上げることができるか、対応できるかなど、まとめが上がってきてからも現場サイドでの議論は続いていくように思いました。

また、「教育」と「研究」の両軸で大学は語られることが多いですが、アクティブラーニングを語る場合には「学習」も含め、3点で表した方がしっくりくるような気がするのと、主に教員と図書館・情報部門を軸に議論が進んでいますが、教務課や大学院課といった教務部門も含めた指針だが出せると、大学全体として取り組みやすくなるのかなと思ったりもしました。(逆に縦割りが邪魔になる可能性もありますが・・)

 

いずれにせよ、大学や図書館運営を考えていくうえで重要なまとめとなる可能性は高く、このまとめを軸に何らかの行動、計画を進めていく必要がでてくると思いますので、今後の審議にも注目していきたいと思います。(次回は7月24日(水)13時30分~15時30分の予定とのこと)

 

関連する補助金

おまけ的に少し情報を。先日、「私立大学教育研究活性化設備整備事業とラーニングコモンズとアクティブラーニング」というエントリを書きましたが、平成24年度より始まった「私立大学教育研究活性化設備整備事業」の「主体的な学びへの転換を図り、学生の学修効果を最大限発揮するための効果的な教育を行うための環境を整備する取組 」が、まさにアクティブラーニングに関する補助金となっています。

 

募集開始が7月末、〆切が 8月末と準備期間が短いながらも、採択結果180件中119件、約65%の多くがアクティブラーニングやラーニングコモン ズの整備の内容となっています。今年はさらに予算規模が増え、45億の予算が組まれており、補助額の上限はあるものの関係者の注目度は高いと思います。

 

ちょうど先日、昨年度の募集に申請しラーニングコモンズの改装を行ったICU(国際基督教大学)の図書館を見学させていただき、畠山館長代行にお話を伺う機会がありました。リニューアルの趣旨から補助金申請の過程、改装内容など、詳細な情報をホームページ上で説明・報告されており、利用者に対しての説明責任を果たすだけでなく、学外者にとっても大変参考となる情報を公開いただいております。

 

ホームページにも記載のある通り、昨年の募集公示を受け初めて知ったそうで、学長などと直接会議をもって急遽計画を進め申請を行ったとのこと。その行動の速さ、計画力の高さにもびっくりですが、以前より検討され引き出しが用意されていたのがポイントだったのだと思います。

 

危機管理体制と同じで、ことが起きてからでは間に合わないので、常に改善ポイントを検討し、議論して備えておくことが大事だなぁと思った次第です。おそらく、昨年は申請が間に合わず、今年の申請に備え準備をしてきているところも多いと思います。果たして今年は、どの大学がどんな計画を出してくるのか、とても興味のあるところです。